テルミトラはもう一度、執務室の隠し部屋に行った。

そして、奥の壁に一つだけ掛かっている鍵を今度は大事に取った。

そして、執務室の机の上に紙を置いた。

内容は勿論。

『しばらく休む。探さないでください。』

である……。

さらに、玉座の後ろの部屋に行き、誰もいないことを確認して鍵をかけた。

再び警戒しながら部屋の奥へと向かう。

そこには誰も潜んでいなかった。

ほっと一息して、テルミトラは鍵を見つめる。

鍵の持ち手は林檎。

テルミトラはそこに優しく口づけをした。

すると、鍵が光輝き、妖精の少女になった。

その妖精は、実に元気そうで、赤い目に赤い髪の毛。

その、燃えるような赤い髪を頭の後ろで高く縛っているためにその妖精が歩くたびに火の粉が舞っているかのように錯覚させられる。

妖精は気持ち良さそうに伸びをすると、目の前の人物にひざまづいた。

「これは、これは。お初にかかります。え~と……。」

妖精は普段あまり使わなそうな敬語で話している。

そして、言葉につまり、頭をボリボリかき、ちらっとテルミトラを見た。

テルミトラは腕を組み、仁王立ちで答えた。

「テルミトラ。」

テルミトラの怖さに少し怯えたが妖精は気をとりなおして、続きを言う。

「テルミトラ様。私の名はシンシアでございます。御用件をどうぞ。」

テルミトラは今までの自分の失態から、旅立つことについて包み隠さずすべて話した。

「なるほど。で、あなたは自分で直接鍵を取り戻すために私の力を借りたいと。」

テルミトラはコクリと頷き、言った。

「ええ。だから、あなたには私の契約者のふりをしてほしいの。王には敬語が掟、みたいだけど、王だとばれたら元も子もないわ。だから、タメ口でお願いできるかしら?」

シンシアは戸惑った。

いくら王に言われても掟は掟だし……。

後で、誰かにばれたら私はギロチン行き……。

そんなことは避けたい……。

「で、……ですが……。」

シンシアは反論をしようとしたがテルミトラは止めた。

「お願い!!!もし、ばれても、ギロチンにはあなたをかけないから!!!」

テルミトラの必死さにシンシアは頷くしかなかった。

シンシアの了承を受けたテルミトラはにっこり笑って言った。

「あなたの一番苦手な魔法は何かしら?」

「……それを知って、どうするの?」

シンシアはふてくされて言った。

「あなたたち、八世の鍵は妖精の中でも最も強いのよ。特に、火神の鍵のシンシア。あなたはその中でも一番だわ。もし、あなたが火神の鍵だとばれたら、真っ先に危ないのはあなたよ。あなたは普通の妖精と同じようにしないといけないわ。だから、そのために一番苦手な魔法しか使わないようにしなくちゃ。」

テルミトラはシンシアを説得する。

シンシアもその事を理解したのか、

「わかった。私はバリア魔法しか使わないわ。後の二つの魔法は封印ってことね!!!」

と、テルミトラの言葉にしたがってくれた。

テルミトラはシンシアが言いたいことを理解したことを分かると、自分に魔法をかけた。