イルはカウンターを通り過ぎた。
そして観覧席へと階段を上がる途中。
アニアに会った。
「....おや、アニア。こんなところで会うとは。てっきりさっきの素手の大会でお会いするかと。」
「あら、冗談はやめてちょうだい。私が素手で戦うことは今後一切ないわ。」
アニアは穏やかに言った。
「....とすると、次の剣技大会に出るんですね?その大会はこの闘技場で優勝するのが最も難しい競技ですよ?あなたのようなか弱い少女が出るのはお早いかと。」
「....私はその大会で欲しいものがあるの。安心してちょうだい。私が傷つくことはないわ。ところで、あなたも結構強いのね。」
「それは、ありがとうございます。ですが、俺もあなたと手合わせしたかったです。そうすれば、今頃あなたは欲しいものを手に入れることができず、悔しがっていただろうに。」
「....ふふふ。残念ね。どっちにしろ悔しがるのはあなただと思うけど。」
イルはカチンときた。
「....賭けをしませんか?私が今から、この大会の商品のお金を全てあなたに賭けます。」
アニアはニヤリと笑う。
「....面白いわね。いいわよ。賭けを受けるわ。優勝は間違いないけどね。」
「あなたの自信が崩れることのないように祈りましょう。」
イルはそう言い、階段を上がった。
アニアはイルがいなくなると、
「....賭けは最初からあなたの負けよ。」
そうつぶやいた。