「....なあ、イル。そういえばさ、マローニはアニアに結構忘れられてたよな。」
「そうでしたね。影....薄いですよね。」
ラミアスとイルはそんな話を始める。
マローニは表情を暗くした。
確かに、私は影が薄いわ。
それは、私の嫌なことなのに....。
「だからさ、影武者とかできそうだよな。」
「確かに、そうですね。」
「俺のお母様とか?」
「つまりは、セレビア国の女王様、ミリアーネ様ですか?」
「お前、いちいち俺が王子なのにつっかかってくるな。まあ、そういうことだが。」
「ははっ、事実ですから。俺、ちょうどドレス持ってますよ。」
「!?なぜ、そんなものを持ってるんだ....。」
「なにかのためですよ。例えば、知り合いに会ったら着せるとかですかね。」
「....例えば?」
「聞いてしまってよろしいのですか?俺と今、会話している人とか。」
....俺かよ....。
ラミアスは、冷めた目でイルを見た。
「そんな目で見ないでください。では、マローニさん。着てください。」
いきなり話を振られたマローニはビクッとした。
「えっ....私なの?」
「もちろんですよ。どっかの誰かさんは自分が着るものと勘違いしてますが、私にはお生憎そのような趣味はございません。とうの本人は知りませんが。」
「.......、ちっ。」
「そこ、舌打ちしたって無駄ですよ。いくら自分が着たいからって。」
それを聞いたマローニは軽蔑したようにラミアスを見る。
「....違うぞ!?俺は、断じてそんな趣味はない!!」
ラミアスは必死にマローニを説得する。
最終的にマローニは
「はあ、そうですか....。」
と言ったものの、目つきは変わらなかった。
そのとなりでイルは必死に笑いをこらえていた。
アニアも顔をニヤつかせて話を聞いていた。
それを見たシンシアは、
「アニア、....キモいよ。」
と言った。
シンシアの言葉を聞いて、ラミアスとイルは振り返ったが、シンシアの言葉で瞬間的にアニアは真顔になっていた。
シンシアは青ざめた。
アニアの顔がシンシアへ向く。
次の瞬間、ドゴッとアニアがシンシアの足を蹴飛ばした。
ラミアスは驚いた顔で見ていて、イルは少し怖い顔でアニアを見た。
そして、イルが口を開こうとする前に、シンシアが言った。
「ちょっと、アニア!痛いじゃない!」
「あら、回復魔法でもう治っているのに言われたくないわね。」
アニアはすました顔で言う。
テルミトラ様が怒っている!
もしかして、今までキモイなんて言われたことないのかな....。
あの、美貌だからな....。
シンシアは言った。
「アニア、ごめん。」
アニアはシンシアを見て、 ため息をついて言った。
「こちらこそ悪かったわね。無駄に体力を使わせて。」
お互いの和解を見たラミアスは頬を緩めて、顔を外に向けた。
もうすぐ日が登る。