そこではラミアスが知らない誰かと話をしていた。
アニアがシンシアに近づくと、ラミアスはアニアに気づき、顔をこちらに向けた。
「お帰り、アニア。」
「…ただいま。ラミアス。…ところで、そちらのお方は?」
アニアは真顔で尋ねた。
「ああ、存在を忘れていた。こいつはイル。昔のちょっとした知り合いなんだ。」
「…存在を忘れるとはどういうことですか。俺はそんな存在になった覚えはありません。」
イルという青年はラミアスにすかさずツッコミを入れた。
金髪に青い瞳が映える。
整った顔立ちは凛々しく、人の良さを表している。
「…そう。どうして、ここへ?」
アニアはイルを信用できない顔で見ていた。
もし、悪魔に関連することを調べている人
だったら……。
速攻逃げるわ。
イルは朗らかに笑った。
「単なる偶然です。たまたま、旅の途中に出会ったのです。」
「まあ、単なる仕事のない人だからな。イルは。」
ラミアスはそっぽを向いて言った。
「…そういう言い方は避けてもらえますかね。」
イルは腕を組んでラミアスを見た。
「全く…。あんたが王子だと知ってさえいれば、俺はあんな手助けはしなかっただろうに。」
「………おい。それは言うんじゃない。」
ラミアスが慌てるように言った。
「…えっ!?ラミアスは王子なの!?」
シンシアも慌てたように言った。
「あれ、知らなかったのですか。彼はセレビア国第一王子様ですよ。」
イルはきょとんとして言った。
「そ れ を 言うんじゃねえ!!」
ラミアスは必死に言った。
「えっ。言ってしまいましたが。」
イルは棒読みで言った。
「あー!!もう!!」
ラミアスは頭を抱えてしゃがみこんだ。
そして、小さな声で言う。
「…そうだ。いかにも、俺は第一王子だ。」
やっぱり。
アニアは思った。
土地に関しての豊富な知識。
最初に出会った時の馬車の爆走…。
やっと納得がいったわ。
「俺は、アニアとシンシアにあった日、城を抜け出した。」
「…で、戻らないの?」
アニアは単刀直入に言った。
ラミアスはしゃがみこんだまま、無言だった。
しばらくして、ミカドがアニアに近づいた。
「…ラミアスには夢があるんだ。世界を回る夢。だから、城を抜け出した。」
「そうだ。俺にはその夢がある。だから、帰れない。」
ラミアスはすくっと立ち上がった。
「そう。なら、いいわ。付き合ってくれるんでしょう?」
アニアはにやりと笑って言った。
そして、くるりと後ろを向き、歩いていった。
「…帰れとは言わないんだな。」
ラミアスがボソリと呟いたが聞いた人はいなかった。
しばらくして、アニアが恥ずかしそうに帰ってきた。
「ごめん。忘れていたわ。こちらはマローニよ。女王様が鍵を見つけたご褒美に彼女も連れていいことになったの。」
「…よろしくお願いします。」
マローニは若干自分の影の薄さに絶望しながら、恥ずかしそうにお辞儀した。