そもそも、妖精は人間には見えないものであった。
しかし、長年の研究によって、妖精は人間が見れて、さわれる実物へと変化したのだ。
つまり、妖精は大きさが自由自在なのであり、どんな姿にもなれるということであった。
……テルミトラを除いて。
彼女はそもそも、妖精ではないかもしれない。
妖精科学者の中ではそのような話も出ている。
人間と契約を始めた頃から、契約をしやすいように人間の大きさをもちいられるようになった。
アレスは握手をし終えると、またもとの場所に戻りひざまづいた。
テルミトラは、静かに妖精たちの方を向いている。
そして、妖精たちは何食わぬ顔で突っ立っている。
すると、一人の妖精の体が月のように輝き出した。
テルミトラは、それを見るとその妖精の名を静かに呼んだ。
「ツータ。」
名前を呼ばれたツータは光輝きながら緊張した面持ちでこちらに羽を使い、飛んできた。
テルミトラは、アレスに告げた。
「あなたはこの妖精となら、契約を結べます。どうしますか?」
アレスはツータを見つめた。
海のように深い青い髪の青い瞳を大きく見開いている少女だ。
彼女は青い髪を二つに分けて頭の上で結んでいる。
アレスはしばらく黙っていた。
そして、決心をつけたようにコクリと頷いた。
テルミトラは、それを見ると、杖をかざし、呪文らしきものを唱え始めた。
「今なり。主となるものの願いを叶えられるべき妖精を派遣する。名はツータと申す。今より主と妖精は一心同体になるべき!」
テルミトラの詠唱が終わった途端にパー、とアレスとツータの腕が輝き出し、紋章が刻まれた。
「ツータ、あなたは何を望みますか?」
テルミトラは、にこやかに尋ねる。
ツータはもじもじしながら答えた。
「はい。私は、将来医者になりたいので、そのための医学書の本が一年分欲しいです。」
それを聞いたテルミトラは、再び杖をかざした。
アレスのところに杖からの光が行き、365という数字が刻まれた。
「アレス。あなたは365冊の本をツータに渡しなさい。それが契約のルールです。もし、渡せないなら……地獄へ堕ちます。それだけは覚えておくように。」
テルミトラは、それを言うと、部屋を出た。
後ろでは、アレスとツータが深々とした丁寧なお辞儀をしていた。