いきなり馬が速くなりシンシアは叫び声をあげた。
「ちょっと.……。いくらなんでも速いよ!!!」
シンシアはあちこち壁にぶつけている。
「アニアの速度が思ったより速い。」
ミカドが焦りぎみに言った。
しばらく無言が続き一時間ほどした。
もう時間的に辺りは赤く染まり、夕陽が沈みかけている時間だった。
前方には大きな建物が見えてきた。
しかし、暗くて誰もその事に気づかない。
皆、疲れきっていた。
シンシアたちは三回あの魔物の死体で足止めをくらった。
「おい、ミカド。アニアはほんとにこんなに速く行っているのか?どこかですれ違いになったんじゃ「あっ、アニアだ。」
ラミアスはミカドに言葉を遮られミカドをにらむ。
シンシアも身を乗り出して前を見る。
少女が呑気にトコトコ歩いているではないか。
「おーい、アニア~。」
シンシアの呼び掛けに反応したように少女は後ろを向いた。
そして、止まる。
馬車が隣に来るのを待つ。
シンシアはアニアの横に馬車が来るとドアを開けた。
アニアは馬車の中へ入った。
「…ずいぶん遅くに来たわね。何かあったの?」
「魔物の乱闘の跡らしきものがすごくて、馬が止まっちゃったの。全く、この森の魔物は仲間割れが好きなんだね。」
「.……。」
「アニア?」
突然顔を下に向けたアニアにシンシアはたじろいた。
よく見るとアニアは体が震えている。
「どうしたの?アニア。」
アニアを心配してシンシアはあたふたした。
ラミアスたちも心配してこちらを見ている。
アニアは笑いを押し殺していた。
しばらくして、アニアはふっと息をこぼすと何事もなかったように立ち、前方の建物を指した。
「鍵はあそこにあるってわかったわ。」
全員がそちらを向いた。
ラミアスは驚嘆の声をあげる。
「ええ!?あんな建物、前からあったか?親父にはあの森には建物も何もない。ただの木の塊だと教わったんだが。」
「最近できた建物みたいね。」
アニアは状況を述べた。
馬車が止まった。
もうこれ以上は馬車で入れない。
邪悪な雰囲気が建物をまがまがしく覆っている。
アニアはクスリと笑うと馬車から飛び出した。