先端の方で丸まっている長い癖のある髪。
大きい紫色を帯びた伏し目がちな目。
形のよい整った鼻に、思わずキスをしたくなるような魅力的な唇。
優しげに整っている眉毛。
目を際立たせている、長くうっとりとしてしまうような睫毛。
皆が皆、彼女のもの。
多くの妖精が魅了され、城に留まるその理由。
全ては彼女を拝むため。
そして、彼女は今日も玉座にたたずんでいる。
「私の仕事はもうおしまいなの?アリウス。」
「はい。今日はもうおしまいでございます。陛下。」
アリウスは手先をメガネに置いて、機械的に話す。
テルミトラはそれを見ると、
「そう……。もう、下がっていいわ。後のあなたの仕事は私がやっておく。」
と、アリウスに仕事の終わりを告げた。
アリウスは、一礼をするとそのまま一歩下がり、足音を立てずに部屋を出ていった。
テルミトラはそれを最後まで見届けると、スッと立ち上がり、この玉座の後ろにある階段を下っていった。
紙-。紙-。紙-。
どこを見ても紙だらけのこの部屋は、王を入れて信用のある家臣しか知らない秘密の部屋。
テルミトラはずらりと並んでいる紙には目もくれずに一番奥の壁に向かって歩き出した。
「確か、次の依頼人は……海の波を操れる妖精を探しているのよね。」
と、自分自身に確認するように独り言を呟きながら、5枚の紙を手にとって部屋を出た。
妖精は人間と契約を結び、力を貸す。
それが妖精たちの誓いであった。
ただし、契約の際に人間に要求するのは一年間分の何か。
そして、契約できる期間は妖精が承諾した期間だけである。
そして、契約を結んだものはパートナーとなり、目的を果たすのである。
セレビア国では、そういった契約の仲介人を王、そして、王国の仲介人育成機関で育成されたものたちがやる。
今回、テルミトラは海の波を操れる人を探しているという依頼を受けた。
~次の日~
「アレスと申します。私は、セレビア国の南西の海岸、レイオン海岸の中の小さなビーチ、サンビーチの守り人なのですが、近年、波が荒れてきて、経済面でもものすごい打撃を受けているのです。人々の中には長年このビーチにわざわざ足を運んでくれる人も多く、あの波をどうにかしてくれないかとわざわざ言ってくださる方々もいるのです。そこで、私は夏の間だけでもどうにかしてもらえないかとここに来たわけです。」
テルミトラの前で膝まずくアレスは丁寧に説明をした。
テルミトラはフードを被っていて表情は見えないがコクリと頷き、アリウスに手招きをした。
アリウスは、無言でペコリとアレスに礼をすると、メガネを上げて
「さあ。出てきてください。」
と扉に向かって呼びかけた。
すると、扉から五人の妖精たちが出てきた。
アレスは訳がわからずポカンとしている。
テルミトラは、アレスの方を向き、
「アレス。そこの五人の妖精と一人ずつ握手をしてください。」
と言った。
それを聞いたアレスはあたふたと立ち上がり、テルミトラの言う通りに妖精たちと握手をしだした。