夜になった。
辺りをいつの間にか、街灯が照らしている。
人通りもなくなった。
今まで賑わっていた商店街も、今ではシーンとしている。
アニアはこれ以上の歩きはうんざりだった。
とにかく寒い。
セレビア国は、スウェリダ国よりもずっと寒帯に位置する。
シンシアに至っては、あまりにも寒いらしく、歯をガチガチと鳴らしている。
「アニア~。ざぶいよ~。」
シンシアの必死の訴えに、アニアは観念しきった。
「わかったわ。ちょっと馬車を探すわ。運良く見つかるかも。」
あえて、走っているのを、と言わなかった。
それを聞いたら、シンシアは動かなくなるから。
そんなことも知らずに、シンシアは鼻水を垂らしながら頷いた。
馬車はいまだに通らない。
シンシアは、願う。
どうか、神様。
早く、寒さから解放して!!!
シンシアの必死の願いが届いたのか……。
後ろから、馬の走る音が聞こえる。
「しめた!」
アニアはニヤリとし、呟いた。
そして、シンシアのフードをぐいっと掴む。
掴まれたシンシアは、じたばたしながら言った。
「ちょっと、何するの?」
アニアはさらに笑みを深め、地図をだし、見せた。
「私達が向かっている方向!!!」
「ええ。私達、かなり運が良いかも。」
アニアは迫り来る馬車に目を据える。
一瞬、馬車がアニアたちを追い越した。
その瞬間に反射的に馬車の紐を掴む。
勢いをつけ、中に入る。
「ふぇぇぇぇぇぇ!」
シンシアは、驚いた顔で叫んでいる。
馬車の中に人はいなかった。
どうやら、操縦席にいるようだ。
アニアたちにはまだ気づかない……。
ふと、馬車が止まった。
「隠れなきゃ。」
小声でシンシアがアニアに呼びかける。
だが、隠れる場所がなかった。
馬車の持ち主らしき声が聞こえる。
「ここまで来たら、大丈夫だろ。なあ、ミカド。」
少年の声だった。
少年はアニアたちが馬車の中に侵入していたことに気づかずに、無警戒で入ってきた。
そして、暗い馬車に人がいるのに気づいた。
「うわ!おい、ミカド。賊がいるぞ。」