敦哉さんも奈子さんも、同じ病院に搬送された。
そして、手術を行ったけれど、回復見込みについては、敦哉さんの方がより深刻なのだった。
担当医の先生の話では、敦哉さんの頭部のダメージが激しいらしい。
まだ両親も到着していない内にICUに入った敦哉さんを、窓ガラス越しに見つめるだけだ。
体にチューブが繋がれ、心拍を計る機械が置かれている。

「あれ?海流は?」

敦哉さんを見ていると、高弘さんが声をかけてきた。

「帰って貰ったの。付き添ってもらうのは悪いから」

「なるほど。それにしても、痛々しい姿だな」

「うん•••」

今ほど、私を好きになってくれなくてもいいから、目を覚まして欲しいと思う事もないだろう。
全てを引き換えにしてでも、敦哉さんには戻ってきて欲しい。
そんな都合のいい願いを、神様は聞き届けてくれるだろうか。

「あ、その指輪見つけたんだな?」

ふと高弘さんが、握りしめていた指輪に気付いて言ったのだった。

「うん。高弘さん、指輪を知ってるの?」

「知ってるよ。敦哉から聞いてたから。その指輪、離れていったあんたの代わりに、身につけてるんだって言ってたな。あいつ、よっぽどあんたが好きになってたみたいだ」

その言葉に、涙が溢れる。
固く握り締めた指輪を感じながら、パーティーの夜、嘘をつくのではなかったと、後悔するのだった。
敦哉さんの気持ちがどうとか考える前に、目撃した事を問い詰めればよかったのだ。
そして、奈子さんとも向き合うべきだった。
もし、そうしていたら、違った今があったかもしれない。
そう思えば思うほど、後悔の念が押し寄せる。

「どうやら、敦哉のヤツ、転落した時に奈子を庇ったみたいだな。奈子の方は、全治3ヶ月だって」

「そうなんだ。だから、敦哉さんの方が怪我の具合が深刻なのね。だけど、命を懸けてまで守った奈子さんを、どうしてフったんだろう。私には、それが分からない」

あんな一瞬で奈子さんを庇うなんて、ほとんど本能的なもののはずだ。
それほど大事な人なのに、どうして敦哉さんは奈子さんを受け入れないのだろう。

「それだけ、あんたにハマったんだよ。敦哉にとってのあんたは、命を懸けて助ける奈子より、さらに大事な存在だって事だろ?受け止めてやれよ、その想いを」

それならば、目を覚まして欲しい。
敦哉さんの口から、直接聞きたいから。
敦哉さんの想いを考えれば考えるほど、涙は枯れる事なく溢れ出た。

「敦哉さん、私が側にいるからね」

聞こえるはずがないと分かっていながらも、ガラス越しに想いを伝える。

「敦哉さん、お願いよ。目を覚まして•••」