二台の救急車は、敦哉さんと奈子さんを乗せて、今にも出発しようとしている。

「ほら、愛来は敦哉の方へ乗れ。俺は奈子に付き添うから」

「う、うん」

高弘さんに促され、ためらいながらも救急車へ乗り込む。
先に乗っていた海流は、私の手を取ると引き上げてくれた。
敦哉さんも奈子さんも、頭部からの出血が酷い。
それでも幸いだったのが、落ちた先が植え込みで、クッションになった事だ。
酸素マスクを付けられ、応急処置を施される敦哉さんに意識はない。
その痛々しい姿に、体が震えてくる。

「愛来、大丈夫だよ。敦哉さんは死にはしない」

「うん•••」

海流に優しく肩を抱かれて、弱々しく頷いた私は、敦哉さんの首元に光る物を見つけて固まった。
救急隊員の人が、処置がし易い様にとシャツのボタンを外した為に、それが見えたのだ。

「これは、外しておきましょう」

そう言われて外された物は、ネックレスだ。
それも、チェーンに指輪が通してあるだけのもの。

「あ、あの。それを見せてください!」

ネックレスを受け取り指輪を確認すると、思った通り私が敦哉さんから贈られた指輪だった。

「返したはずの指輪を、何でネックレスなんかに•••」

すると、海流がゆっくりと話してくれたのだった。

「実は敦哉さんは、俺たちの本当の関係を知っていたんだ」

「えっ?知っていた?」

海流に目を向けると、肩を落として落ち込んでいる。

「あのパーティーが終わって週明けの月曜日の夜に、高弘づてに敦哉さんから呼び出されたんだ。愛来から別れを告げられたって。でも、愛来を諦めきれないからって、俺との真実を確かめに来たんだよ。だから俺、本当の事を話した•••」

「じゃあ、私が嘘をついていた事を知ったってわけ?」

すると、海流は黙って頷いた。

「敦哉さん、本気だったよ。それに愛来だって、全然割り切れてなかっただろ?だから、俺はもう隠せなかった。それで話したんだけど、敦哉さんからは俺たちが会った事を、愛来に話さないで欲しいと言われたんだ。自分から、もう一度愛来に気持ちを伝えたいからって。だけど、こんな事になるんだったら、余計な事をしたついでに、愛来に話しとくんだったよ」

涙ぐむ海流は、顔を横にそらした。
まさか、敦哉さんが真実を知っていたなんて、胸が苦しくなってくる。
そして、私を想ってくれていた。
だから、この指輪を持っていた。
それを考えるだけで、涙が溢れて止まらない。

「どんな想いで、この指輪を身につけていたの?敦哉さん、話を聞きたいから目を覚まして。お願い」

少し冷たい敦哉さんの手を握って、心の中で祈り続けていた。
目を覚まして欲しいと。