別邸というのは、中心部から車でおよそ5分ほどの距離の住宅街にあるらしい。
ちなみに5階建てのマンションらしく、普段は使用されていないとか。
時々、奈子さんのお父さんが仕事に集中する為に使ったり、著名人を集めてパーティーをしたりするそうだ。
その場所に何故、奈子さんがいると思うのか高弘さんに聞いて初めて、事の重大さに気付いたのだった。

「あいつさ、自殺するって書いてるんだよ」

「自殺!?」

思わず声を上げてしまい、慌てて手で口を覆う。
助手席の敦哉さんは、口をきかずに俯いたままだ。
どれだけ、心配しているのだろう。
すると、ハンドル片手に高弘さんが、普段と変わらない口調で説明してくれたのだった。

「そのマンションてのが、真偽は定かでないけど、奈子のオヤジさんと義理の母親の密会の場所でもあったらしい。どうやら、奈子の本当のお母さんが生きていた頃から会っていたとか。だから、奈子はあのマンションを嫌っているんだ」

なるほど。
それならば、自殺をすると書いた奈子さんが来ている可能性も高いだろう。
それにしても、羨ましいくらいのお金持ちに生まれながら、奈子さんも敦哉さんも高弘さんも、その立場に苦しめられていたという事か。
きっと幼い頃は、三人でいる時間が何より幸せだったに違いない。
それが恋愛感情が入ることで、こじれていったのかもしれない。
かつての幸せな時間すら失った三人は、どんな気持ちなのだろうか。
奈子さんが敦哉さんへの想いを断ち切れなかったのは、分かる気がする。

「それにしても、どうして自殺なんか•••」

そんな当たり前の疑問には、誰も答えてはくれず、車はマンションへと着いたのだった。
モダンなシンプルなマンションで、周りも同じ様なマンションが目立つ。
車が停まると、一番先に敦哉さんが飛び出していき、入口へと走った。
その敦哉さんについて行く様に、私たちも走る。
思った通り、奈子さんが来ている様で、入口のドアは簡単に開いたのだった。

「たぶん、屋上だ。部屋はどこも明かりがついていない」

敦哉さんの言う通り、室内は真っ暗だ。
ただ一つ、明かりがついている場所が、上階へと続く中階段だけ。
すると、辺りを見回した高弘さんが、敦哉さんに言ったのだった。

「ここは非常階段も兼ねているから、電気がついているんだ。ブレーカーが落としてあるから、エレベーターは無理だ。階段で行こう」

その言葉に頷いた敦哉さんは、急いで階段を駆け上がる。
遅れを取るまいと、海流に続いて上がるけれど、とても追いつけない。
こんなに敦哉さんに心配をかけるなんて、問題が解決したら奈子さんに文句を言ってやろう。
そんな事を考えながら、ようやく屋上へ辿り着くと、予想通り奈子さんがいたのだった。