「あ、おはよう」
「どうしたの?」
「いや・・・」
“どうしたの?”なんて聞いたけど
本当は何を見てたのか分かってる。
毎朝うちの前を通って幼稚園に行く
すごく微笑ましい親子連れ。
近所に住んでるから顔も名前も知ってる。
でも、もっと知ってることもある。
あの子も、私と田中くんと同じ
あの施設に住んでいたことがある。
田中くんとは重なってないから
私しか知らない事実。
「あの子、私たちと同じだったんだよ」
「え?同じって?」
田中くんに荷物を持ってもらって
親子連れとは反対方向に
歩きながら話す。
「流希くんっていって
私たちと同じ施設に住んでたの」
田中くんは“信じられない”
って顔をした。