「結衣さんは、話したくないみたいです。」

 早瀬と話をすると、どんどん早瀬に心を開いて自分の気持ちをさらけ出してしまう。あたしは奏多の彼女なんだから、もう不安にさせちゃダメだ。


 「…なんだよ、それ。」

 キレ気味の早瀬の声に、ビクッと震える身体。


 早瀬、怒ってる。

 当たり前だよね。つい数時間前まで仲良く話していた親友が、いきなり話したくないなんて言ってきたら怒るに決まってる。

 あたしが同じことを知奈ちゃんにやられたら、絶対ショック受けるもん。


 「…ごめん。」

 早瀬に聞こえるか聞こえないかぐらいの声のボリュームで、謝る。自分がやられて嫌なことを大切な親友にやるなんて、最低だ。


 「何に対してのごめん?」

 早瀬も落ち着いた声で、あたしに問いかける。その声が、優しくてーーー胸が痛くなる。


 奏多だけじゃない、友達だって大切にしなきゃ。だから、早瀬にちゃんと自分の気持ち、言わなきゃ。


 「…今日から、奏多と付き合うことになった。だから、早瀬の気持ちには答えられないし、奏多を不安にさせたくない。」

 ちゃんと話さなきゃ。向き合わなきゃ。


 「…でも、早瀬とも今までみたいに仲良くしたいし、自分でもワガママだって思うけどーー「結衣、」

 あたしの声を遮って、再び話し出す早瀬。


 「鍵、開けて。」

 今度は素直に、鍵を開ける。


 ーーーーーガチャッ


 あたしの目の前に現れた早瀬は、すごくすごく完璧な笑顔で、笑っていた。

 あたしはこの笑顔を知ってる。


 だって、早瀬がしている笑顔は、あたしが一番得意なーーー作り笑いだったから。