エントランスには、結城が立っていた。


白いTシャツに、黒のクロップドパンツ。
裸足にグリーンのスニーカー。
スエード素材だ。
黒髪はエントランスの明かりに照らされて、ほんのりと赤く染まって見える。


「戸田さん。よかった、間違ってなかった」
結城はそう言った。

奈々子はびっくりして
「どうしたんですか?」
と思わず大きな声をだした。

「気づいてなかったみたいですね」
結城はそういうと、ポケットから鍵を取り出し、差し出した。
「はい、これ」

「あ」
奈々子は口に手をあてる。

「車におちてたんです。これ、家の鍵ですよね。今日なかったら、家に入れないから、すごく困るんじゃないかと思って」
結城はそういうと微笑んだ。

「す、すみません」
奈々子は恥ずかしくて、頭をさげた。

「いいんです。大丈夫ですよ。よかった、ちゃんと届けられて。一瞬だけしかお店の名前を見なかったから、もしここじゃなかったらどうしようと思ってたんです」

「ありがとうございます」
奈々子は鍵を受け取り、深く頭を下げた。

「じゃあ、パーティ楽しんでくださいね」
結城はそう言うと、背を向けた。


ガーデンから門までの石畳を歩く後ろ姿が見える。


そして、その向こう、門のところに、一人の女性が立っているのが目に入った。


艶のあるショートヘア。
かわいらしい顔。
まっすぐで長い足。
その女性は結城に腕を絡めると、ちらりとこちらを向き、微笑んだ。


そのまま二人は、夜の町へと歩いて行く。


奈々子は手元の鍵を見た。
キーホルダーのキャラクターは、長年使っているために、摩擦で顔がなくなりかけている。


「舞い上がって、急降下」
奈々子は小さくつぶやいた。


今夜は悪酔いしそうな予感がした。


「もう帰りたい」
奈々子は惨めな気持ちに唇を噛み締め、ホールの中へとかえっていった。