そうこうしているうちに、ホールの明かりが暗くなる。
入って来たホールの入り口にスポットライトがあたり、扉が静かに開くと、真っ白なドレスを来た典子と、新郎の男性が腕を組んで入って来た。


「わあ、きれい」
奈々子は思わずつぶやいた。


典子は背が高く、顔立ちもきれいだ。
目の前を通り過ぎるとき、典子がにっこりと微笑んだ。
ベールの下から、美しい背中が見える。


「新郎の高明さん、幸せものだ」
理沙が言った。

「うん、そうだね」
奈々子も頷いた。


司会の女性が、二次会を進めて行く。


奈々子は典子に挨拶をする機会をうかがっていたが、なかなか新郎新婦の前の人だかりがはけない。
奈々子は理沙に
「ご飯たべて待ってよう」
と言った。


典子の好きな女性シンガーの曲が流れている。


それほど親しくしてはいなかったけれど、それでもやはり人の幸せはうれしいものだ。
料理を片手に、ワインも進む。だんだんと楽しい気持ちが増して来た。


佳子が
「ねえ、あっちのグループは、新郎の友達?」
と訊ねる。

「ん? そうじゃない?」
理沙がサラダを口に入れながら答えた。

「新郎って、何してる人?」
佳子が聞いた。

「医者、医者」
誰かが言った。

「じゃあ、あれ、お医者様のグループ?」
佳子が目を輝かせて言った。

「かもね」
理沙が言う。


奈々子も気になって、目をこらしてそのグループを見る。
確かに、まじめそうな人たちだ。


「ねえねえ、話しかけようよ」
佳子が奈々子の腕を引っ張る。

「ええ? 恥ずかしいよ」
奈々子は一歩下がった。

「誰か、一緒にいかない?」
佳子が言った。

「いくいく」
何人か手をあげて、固まりになってそのグループに近づいていった。

「奈々子、行かないの?」
理沙がグラスを空けながら訊ねた。

「いいよ」

「付き合ってる人、いるの?」

「いない」

「じゃあ、こういうのチャンスじゃないの? それとも結婚願望がないとか?」

「そんなこともないけど、なんか尻込みしちゃうの」

「昔から、奈々子は男性に……なんていうか、極度の恐怖症?」

「恐怖症じゃないと思うけど、緊張しちゃうの」

「まだ、そうなんだ」

「うん」

「じゃあ、誰とも付き合ったことないの?」

「……うん」
奈々子はうつむいた。

「やだ、もったいない! 若いうちだけよ、恋愛を楽しめるのは」
理沙が言った。

「わかってるけど」

「ほら、行ってきなよ」
理沙が奈々子の背中を押した。

「あ、ちょっと……ほら、典子の前、空いたよ!」
奈々子は理沙の強引な後押しをはぐらかそうと、典子の方を指差した。

「うん、もう! 消極的なんだから。じゃあ、先にちょっと挨拶言ってこよ」
理沙は医者グループと話している友達に
「挨拶いくよー」
と大きく声をかけてから、みんなで典子の前に集まった。