住宅街の細い道を通り抜ける。
霧のような雨が未だふっており、ワイパーが規則的に動いた。


「いつまでふるんでしょう」
奈々子はいった。

「うーん。もう終わりそうですけどね。ほら、向こうの空は明るいですよ」
結城が指差す。

「ああ、本当。よかった。雨じゃあ、大変だなと思ってたんです」

「いい結婚式になるといいですね」
結城が大通りに出るために、ウィンカーを出す。

「はい、そうですね」
奈々子は結城の方をなるべく見ないように、窓の外に目を向けた。


沈黙が流れた。


細かな雨が窓に当たる音と、
結城の呼吸音。


奈々子は手持ち無沙汰を隠すため、バッグの中を引っ掻き回して、整理してるように見せた。


「戸田さんは、どんな映画が好きですか?」
結城が突然訊ねた。

「え、映画? あの、そうですね、泣かない映画が好きです」

「感動したり、悲しいのは好きじゃないってこと?」

「はい。泣きたくないんです。だからハリウッド大作とか、ラブコメディとか、そんな感じのを。でも最近は見に行かなくなりました」

「すぐDVDになったりしますからね」

「テレビでも放送しますし。何より一人でラブコメの映画を見にいくって、ちょっと勇気がいるんですよ」

「お友達を誘えばいいじゃないですか」

「うん、そうですね。そうなんですけど。あまり社交的な方じゃないので」

「そうなんですか?」

「はい、一人の時間も好きですし。マメな方じゃないです」

「ああ、僕とおんなじだ」
結城が笑った。