「あれ、暗くなりましたね」
結城が窓の外を見て、そう言った。

「え?」
奈々子が振り向くと、空には真っ黒な雲が広がっていた。

「雷だ」
結城が言うやいなや稲妻が走り、ドカーンと大きな音が響いた。

「最近、こういう天気が多いですね」
結城は待合室に出てくると、ソファに寄りかかるように窓の外をのぞいた。
「すぐ止むと思いますけど」

「そうですね」
奈々子は結城から距離を置き、立ち尽くしていた。

「すみません、もうしばらく雨宿りさせてください」
結城がいう。

「もちろんどうぞ。早く止むといいですね。次のお仕事に響きますから」
奈々子が言った。

「今日はこれで最後なんです」
結城はソファに座り、膝に両腕をのせ、前に乗り出した。
「あとは会社に戻ってちょっとした書類仕事をするだけです。土曜日ですから」

「そうですか」
奈々子は立ち尽くしたまま、そう答えた。


結城が自分を見てる。
ああ、どうしよう。


「座りませんか?」
結城が自分の隣を手で示した。
「自分の職場でもないのに、なんだかずうずうしいですけど」
そういって笑う。


奈々子は言われるがままに、結城の隣に座った。
もちろん、少し隙間をあけて。


「でもラッキーでした、戸田さんがいてくれて。今日は時間が押していて、ほら、もう二時半ですよね。いつもなら一時ぐらいには伺えるのに、今日はなんだか手間取っちゃって。でもこの時間だから、戸田さんがいてくれた。もし誰もいなかったら、気持ちが随分落ち込んでました」

「わたしも助かりました」
奈々子は招待状を手に、そう言った。


すると結城のお腹から、ぐうという音がした。

「まずい」
結城が照れて笑う。

「お昼ご飯、召し上がってないんですか?」

「急いでたもので」

「ちょっと待っててください」
奈々子は立ち上がって、休憩室に行く。


テーブルの上に、みんなで持ち寄ったお菓子がある。
奈々子はおせんべいと、クッキーを手にもって、結城に渡した。
「こんなものしかないんですけど」

「ありがとうございます」
結城が手にとる。早速包みを開けて、口にほおばった。
「なつかしいお菓子ですね。子供の頃はよく食べました」

「わたしもこのお菓子、昔から好きなんです。おいしいですよね」
奈々子は同意した。