いろいろ物を動かしながら、ふと自動扉の外を見ると、人影が見えた。
太陽の光でちょうど顔が影になっているが、大きなクーラーバッグを肩から下げているように見えた。
「あれ?」
奈々子は顔を見ようと、待合室の方に身を乗り出した。
その人物は扉に吊るされている「休診」という文字を読んで、肩を落としたように見えた。
「あれはもしかして……」
奈々子は慌てて待合室に出て、自動扉を手の平で軽く叩いた。
結城がすぐに気がついて、少し恥ずかしげな顔をした。
「今開けます」
奈々子は平静を装うと、待ってというように手で合図した。
本当は心臓が爆発しそうに動いていて、足がもつれそうになる。
自動扉上部にある電源のスイッチを入れると、ゆっくりと扉が開いた。
熱気が室内に流れ込む。
結城は照れたような笑顔を浮かべながら、診療所に入って来た。
「お休みでしたね。すっかり忘れて……」
結城は手でおでこにかかる黒髪をかきあげた。
「暑い中、ご苦労さまです」
奈々子は頭を下げ、それから急いで休憩室に走り、自分のために買い置いてあったスポーツ飲料を取りだした。
待合室に入ると「どうぞ」と結城に差し出す。
結城は「……すみません」と言って手にとった。
「ありがとうございます」
「もしよければそちらに座って、少し涼んでからお帰りになられたらいかがですか?」
奈々子はそう言ってから
「変に思われたらどうしよう」
ととたんに不安になる。
結城は
「じゃあ、お言葉に甘えて」
と言って、クーラーバッグを床に下ろし、腰掛けた。
ペットボトルのフタをひねると、プラスチックが割れる音がする。
結城は一気に半分ほど飲み干して
「生き返った」
と笑顔を見せた。