診療所裏口の鍵をあけた。
直接診察室に通じる扉。
かず子先生はいつもここから出入りしていて、外階段を上がるとかず子先生の自宅だ。


室内は空気が淀んでいて、むっとした。
待合室に入ると、迷わず冷房のスイッチをオンにする。
天井に埋め込まれたエアコンから、冷たい空気が流れ出てきた。

奈々子はほっと息をついた。


誰もいない診療所は、少し不気味だ。
外は驚くほどの快晴なのに、室内はなんだか陰気くさい。
この診療所の古さと、あと、やはり病院だということが、気持ちを落ち込ませるのかもしれない。


他に人がいれば、そんなこと気にもしないのに。


奈々子は三年ほど前に行った、絶叫病棟というお化け屋敷を思い出して、ぶるっと身震いした。



受付の蛍光灯をつける。

狭いスペースだ。
カウンターにモニターとキーボード、背面にはカルテを入れてある、大きな棚。
子供の目を楽しませるため、ミッキーマウスやアンパンマンなどの人形も一緒に飾られている。


奈々子はカウンターの上をざっと見渡す。
招待状の入った、小さな白い封筒は見当たらない。


車のついたグレーの椅子を引っ張りだして、下を覗き込む。
カウンターの下には、モニターに接続されたコンピュータ本体と、たくさんのケーブル、それから処方箋を印刷するためのプリンタが置かれていた。


「この奥かな?」


奈々子は身を屈めて奥を覗き込むが、光がとどかずよく見えない。


奈々子は自分の姿を見下ろして、顔をしかめた。
せっかくきれいなドレスを着て来たのに、ここに膝をついて探しまわるのはできれば避けたい気がした。


奈々子はすこし考えてから立ち上がり、まずは筆記用具やメモ帳、診察券をストックしておくスタンドなど、カウンター周りの様々な小物をどかして探すことにした。
結局はカウンター下に入らなくちゃいけないだろう、ということは薄々感じていたが、膝をつかなくて見つかるなら、ラッキーという気持ちだった。



奈々子はここでほぼ全てのことを行う。
頻繁に鞄からものを取り出すし、口を開けたまま足で鞄を蹴ってしまったこともある。
だからここにないとしたら、あとはもうどこにあるのか見当もつかなかった。