拓海はなんとか落ち着こうと、自分に何度も言い聞かせた。


あの日のできごとと、今日は別だ。
一緒にする必要はない。
けれど止めようとしても記憶がどんどん流れ出て来て、拓海は呼吸できなくなりそうだった。


パトカーの光。
消えて行く体温。
身体が血で濡れている感覚。


拓海は勢いよく頭を振った。

今、パニックを起こす訳にいかない。
ここでは誰も守ってくれない。
むしろ拓海がゆきを守らなくてはならないのだ。


「しばらく友達の家に泊まっていいそうです」
ゆきが部屋にあがってくる。

「そう、よかった」

「あの……荷造りしている間だけ、一緒にいてくれませんか?」

「もちろん。友達の家までも送るよ」

「本当に近所なんで、大丈夫だと思いますが」

「いや、僕が気になるから」
拓海は言いはった。