木々が雨にぬれ、しっとりとした緑の香りがする。
二人は黙って歩いた。
太陽の日差しは傾き始め、オレンジ色に染まりだす。
空を見上げると、雲が早いスポードで流れて行った。
ゆきのアパートについた。
先日は逃げるように後にしたので、拓海は「こんなアパートだったかな?」という気持ちになる。
ゆきは鞄から鍵を取り出し、一度拓海を見上げた。
不安そうな顔。
拓海はうなずいてみせた。
扉を開けると拓海が先に中に入る。
ゆきは玄関口で立って待っていた。
壁のスイッチを入れると、蛍光灯が瞬いた。
青白い光が室内を照らす。
「何か動かされたり、なくなってるものある?」
「わかりません」
ゆきは首を振った。
拓海はスニーカーを脱いで部屋にはいる。
写真のアングルを想像して、目を向けると、そこには拓海の腰あたりまでの観葉植物が置かれていた。
キッチンの横あたり。
部屋を見渡せる場所だ。
鉢植えの中に手を入れると、案の定小さなカメラがみつかった。
いつからあったんだろう。
いつ侵入されたんだろうか。
「カメラあったよ」
拓海は玄関で心細そうにしているゆきにカメラを見せる。
「どうしよう」
ゆきは泣きそうな顔になっていた。
「すぐにでも引っ越した方がいいけど」
「そんなお金ありません」
ゆきがうつむく。
「ここにはもう、帰りたくないよね。実家には帰れない?」
「実家は八王子で、ちょっと遠いんです。友達が近所に住んでいるんで、ちょっと聞いてみます」
「うん」
ゆきは携帯を取り出し、電話をかける。