「お仕事おわり」
ゆきが笑顔でそう言った。
「まだ早いですね。拓海先生は何か用事ありますか?」

「ないよ」

「じゃあ、うちにでもきます?」

「え!」
拓海は大きな声をあげた。

するとゆきがお腹を抱えて笑いだす。
「先生、おもしろすぎる」

「からかうのはやめてよ」
拓海はぷいっと横を向いた。

「あ、可愛いふりしてる」

「ふりじゃあ、ないよ」
拓海はそんな風に言われて、心外だ。

「だって、今のめちゃくちゃ可愛かったですよ」

「それ、ほめられてないよね」

「ほめてます」
ゆきは自信満々にそう言った。

「この近くで遊べる場所、ありましたっけ」
ゆきがそう言いながらバッグから携帯を取り出す。

「ボーリングとか、カラオケとかあったらいいなあ」
ゆきはそう言うと、電源を入れた。


メールの着信音が鳴り響く。
ゆきは携帯のロックを解除して、メール画面を開いた。


ゆきの顔が変わった。


拓海は驚いて
「どうしたの?」
と携帯を覗き込む。


そこには何百通というメールの入る受信簿。
すべて送信者は同一だ。
メールに添付ファイルがついている。


ゆきは恐る恐るそのファイルを開いた。
どこかの部屋の画像。
姿見とコートハンガー。
扇風機とベッド。


ゆきの部屋だ。


ゆきが青ざめた顔をあげる。
「ど、どうやって……」


拓海はじわじわと忍び寄る不吉な予感を無理矢理押し込め、携帯の添付写真を開いてチェックした。


「みんなおんなじアングルから撮られてる。隠しカメラがあるのかも」
拓海は言った。
「行こう」

「ど、どこへ?」

「ゆき先生のうちに。カメラがあるなら捨てなくちゃ」
拓海はゆきを引っ張ると、ゆきのアパートへと急いだ。