本当に注意して見ていないと、見過ごしてしまう店構え。


お店は週末もあってこんでいたが、なんとか待たずに席まで案内された。

メニューリストを見ながら
「ワイン飲んじゃう」
とゆきがうきうきしながら言った。

「仕事中なのに」
拓海は苦笑する。

「ええ? 土曜日ですよ? ここきてお水だけなんて、つまんない」
ゆきは頬を膨らました。

「いいよ、飲んで」
拓海は笑いながら言う。


プリフィックスのランチコースを頼んだ。
一人では絶対にオーダーしないメニュー。
もちろん結城とも絶対に食べないものだ。


拓海はなんだか落ち着かなかった。これはいつもの週末ではない。


店内はそれほど大きくない。
壁の黒板には手書きでメニューがかかれている。
カップルか、女の子同士できている人が多い。


そこにメールの着信が響いた。


ゆきのバッグの中で震えている。

「見ないの?」
携帯を取り出そうとしないゆきを不思議に思い、拓海はそう訊ねた。

「いいんです」
ゆきはすました顔でワイングラスに口をつける。

「遠慮しないで見てね」

「はい。大丈夫です」
ゆきがにこっと笑う。