「今週も拓海さんいないんですか?」
奈々子はビールを飲みながら訊ねた。
「うん、あいつ忙しいんだ」
結城はテーブルの上のピスタチオの殻を指ではじきながら、そう答えた。
結城のマンション近くの居酒屋。
心地よい音楽が流れる。
半個室席に結城と二人で座っている。
拓海の結婚が決まってから、こんな風に何度か一緒に週末を過ごしている。
映画を見たり、公園に行ったりした。
以前のように、結城の側にいるだけで、胸がどきどきするということはなくなった。
けれど無意識のうちに、注意深く結城の表情を見ている自分がいる。
笑っているけど、本当は泣きたいんじゃないだろうか。
黙っているけど、本当は誰かに気持ちを話したいんじゃないだろうか。
「じゃあ、今夜も一人?」
奈々子は聞く。
「うん」
結城は口を尖らせて、まるですねているようにそう言った。
「合宿でもしますか?」
「なにそれ?」
「一晩中、おしゃべりするんです」
「発想が女子だね」
結城は笑った。
「お菓子とお酒を買って。楽しいですよ」
「どこで?」
「今から須賀さんちに行きます」
「いいの?」
「だって、何にもしないでしょ」
「しないけど……キスもだめ?」
「何言ってるんですか?」
奈々子はテーブルに散らばる殻を結城の方へはじき飛ばした。
「冗談」
「知ってる」
奈々子は笑ってグラスを飲み干した。
結城は殻を手であつめて、テーブルの上に山を作った。
「ナッツ食べ過ぎですね」
「ピスタチオが大好きなんだ」
「にきびできません?」
「なにそれ?」
結城がとぼけた顔で言う。
「聞いた相手を間違えた。肌つるつるですもんね」
「でしょ?」
結城は自分の頬をなでてみせる。
「なんだか鼻についてきた」
奈々子は眉をしかめて言う。
「最近、奈々子さん冷たいなあ」
「須賀さんも、最初と違う。なんでジャージにマフラー?」
「近所だから」
「ちょっとはおしゃれして出て来てくださいよ」
「ひげは剃ったよ」
「それは最低限の身だしなみでしょ」
「だって、ナルシストって言うんだもん」
「それとこれとは違うと思います」
「女って、訳わかんない」
「須賀さんのほうが不思議ですよ」
奈々子はそういってから携帯の時計を見る。
「行きます?」
「うん」
結城もビールのグラスを空にした。