エスカレーターで地下に降りると、ゲーム機の騒音が耳につく。
メダルが落ちる音がなり、電子音が鳴り響く。


薄暗い店内に、所狭しとゲーム機が並ぶ。
ティーンネージャーが誰としゃべる訳でもなく、もくもくとゲーム機に向かっていた。


「須賀さん、ゲームできます?」

「うん」
結城は頷いた。

「夜、一人で来ることがある。家にいても暇なとき」

「小さい頃から好きなんですか?」

「好きだったけど、俺んち貧乏だったから買ってもらえなかった。クラスの子がやってるのを後ろからこっそりのぞいてただけ。だから大人になったら、惜しげなくお金をゲームに注ぎたくなるんだ」

「わたしは弟がやってるのをぼんやり見てました」

「女の子って、ゲームあんまり好きじゃないよね」

「そうですね。うまくできないからじゃないですか?」

「あ、これこれ。夢中になってやった」

「格闘?」

「そう」
結城はゲーム機の前に座り込んだ。
百円を入れる。

奈々子は隣のゲーム機の前の椅子を引っ張り、結城の隣に座った。


「うまいですね」

「でしょ」
結城が得意げに笑った。

「よし、勝った」
結城がガッツポーズをつくる。
「やる?」

「難しそう」

「じゃあ、あれは?」
結城がレーシングマシンを指差した。

「あれならできそう」

「よしやろう」
結城が奈々子の手を引っ張った。



二人並んでレーシングマシンに座った。


「対戦にする?」
結城がお金を入れながら訊ねる。

「どうやるんです」

「ほら、ここで選ぶんだ」
結城は身体をのばして、奈々子のハンドルを操作して設定した。

「レディー、ゴー!」
画面上の結城の車が勢いよくスタートした。
エンジン音が鳴り響く。


奈々子もハンドルを握りしめたが、
「あれ?」
奈々子の車はとまったままだ。


「アクセル踏まないと」
結城が笑って言った。

「あ、そうか」
奈々子は足を伸ばしてアクセルを踏んだ。
勢い良くスタートする。


結城は猛スピードで一位を独走する。
奈々子は曲がろうとすると壁にガツンとぶつかる。
曲がるたびにぶつかるので、最後には結城が笑い出した。


「奈々子さん、どうして思いっきりハンドルきるの? 動かすのなんて、ちょっとでいいんだよ」

「難しい」

「免許持ってないでしょ」

「うん」

「とらないほうがいいよ」
結城が楽しそうに笑う。

「ですね」
奈々子もつられて笑った。