二人は支度を終えると、部屋を出た。


外の熱気は相変わらずだ。
まだ真夏のように暑苦しい。


六階の外廊下をエレベーターに向かって二人歩く。
結城は当然のことのように奈々子の手をつなぐ。
もう手をつないでも緊張することはなくなった。


「何たべる?」
結城が訊ねる。

「おいしいもの」
奈々子が答えた。


結城がエレベータのボタンを押す。


「何でもいいよ」

「わたしも」

「決まらないじゃん」
結城が笑う。


そこにエレベーターが到着した。

扉が開く。



中から拓海が出て来た。
Tシャツにデニムといういつもの格好。

けれど少し様子が違う。


「あ、おかえり」
結城が言うと、拓海はちらっと結城と奈々子を見て、それから無言で部屋へ向かう。


結城の顔が変わった。


奈々子と結城はエレベータに乗り込む。
結城は一階のボタンを押した。

エレベーターの動く音だけが響く。
奈々子は結城の顔を見上げた。
心ここにあらずと言った様子。


一階につくと、奈々子はエレベーターを降りた。
結城も続いておりようとするのを、奈々子は手で制止する。


「今日は一人で帰る。拓海さんのところに、いってあげて」
奈々子は笑顔でそう言った。

「……悪い」
結城はほっとした顔をしてそう言うと、エレベータのボタンを押す。


奈々子は扉が閉まるまで、結城の姿を見続けた。