二人で電車に並んで座る。
ゆきは頭を拓海の肩にのせ、ぐったりとしていた。


地下鉄の黒い窓に二人の姿がうつった。
不思議な光景だ。
こうやって誰かにもたれかかられるのなんて、想像したこともなかった。


拓海はいつも結城にもたれかかっている。


もし結城が奈々子と一緒に生きて行きたいと考えたら。

拓海はそう考えて、突然の不安に胸がしめつけられた。


拓海は頭を振る。
あいつに限って、そんなことはないはずだ。
あいつは俺を置いていかない。


駅につく頃には、ゆきの体調もよくなってきたようだ。
「お腹へってきた」
とつぶやく。

「本当に?」
拓海はびっくりしてそう訊ねた。

「うん……減った」
ゆきは恥ずかしそうに言う。
「だってお昼食べてない」

「ポップコーン食べたじゃん」

「あれはおかし。ごはんが食べたいです」

「また気持ち悪くなっちゃうよ」

「食べ過ぎなければいいんですよ。注意します。拓海先生も止めて」

「いいけど……何食べたいの?」

「うん……焼き肉とか?」

「冗談?」

「ほんと。がつんと食べたい」

「駄目だよ。さっきまでむかむかするって言ってたのに。胃が壊れちゃう」

「大丈夫ですって」
ゆきはえへへと笑った。

「じゃあ、夜ごはんにしよ。それまでに完璧に治ってたら、焼き肉。お昼は、うどんとか、胃に優しいもの食べよ」

「ええ!」
ゆきが不満そうな顔をした。

「そんな顔しても駄目だよ。夜までがまん」

「はあい」
ゆきはしぶしぶ頷いた。