映画は面白かった。
アニメだからといって、子供向けとは限らないようだ。
最後には少しじわっと涙が出る。


結城ほどではないけれど、拓海も割と泣き上戸だ。
そういえば家のテレビで映画を見たとき、結城があまりにも泣くから拓海の涙が引いたってことたあったっけ。


ゆきを見ると、コーラのストローを口にくわえて、見入っている。
エンディングロールの最後まで、ゆきは目をそらさず見ていた。


照明がつく。
人々が立ち上がる。


前の座席に座っていた小さな男の子が、母親に「おもしろかったね」と言うと「そうね」と母親が頷く。
ちらりと見えた母親の瞳は、少し潤んでいるように見えた。
大人はやっぱりうるっと来る。


「見入っちゃった。泣くのは我慢したけど」
ゆきは少し威張ってそう言った。


ポップコーンのカップは案の定空っぽだ。
コーラも全部飲み干している。
拓海のアイスコーヒーは少し残っている。
それを飲み干してから、二人は席を立った。


「トイレいきたいです。Lサイズのんじゃったから、途中からそわそわしちゃった」

「いいよ、待ってる」


ゆきがトイレに行っている間、拓海はゴミを捨てトレーを片付けた。
ブランケットをスタッフに手渡す。


トイレの前で待っていると、ゆきが出て来た。
気のせいだろうか。
顔色が悪い。
照明のせいかもしれない。


「お待たせしました」
ゆきが言う。

「大丈夫?」
拓海は訊ねた。

「大丈夫です。でもやっぱりちょっと食べ過ぎたみたい」
ゆきが申し訳なさそうに言った。

「具合悪い?」

「むかむかして……」

「歩ける?」

「はい」


拓海はゆきを気遣いながら、映画館を出た。
時刻は一時頃。
本来ならランチの時間だけれど。


拓海はゆきを見る。
陽の下に出ると、彼女の顔色の悪さがよくわかった。


「帰ろうか」
拓海は言った。

「でも……もったいないです」

「いいよ、具合が悪いなら、帰ろう」

「だって、ただの食べ過ぎですよ」
ゆきが笑う。

「もっと元気なときに、おいしいもの食べにこよう」
拓海が安心させるように言った。

言ってから、そんな日があるんだろうか、とちらりと脳裏に浮かぶ。


ゆきは拓海の顔を見る。
なぜかすべてを見透かされているような気分になった。


「わかりました」
ゆきが言う。

「ありがとうございます」