月曜日、仕事がはじまる。

落ち着かなくて、不安で、苦しい、お盆休みだった。


結城から連絡はない。
邦明からの連絡もぴたっと止まった。
気づいたのかもしれない。


「ちゃんとしなくちゃ」
奈々子は診療所の鍵を開けながらそうつぶやいた。


一番乗りだ。
締め切った空気の匂いがする。


今日は曇り。
太陽がない分、少し過ごしやすい。
もっと風があればいいのに、奈々子はそう思った。


診療所中の電気をつけ、冷房を入れた。
白衣を羽織って、受付のコンピュータの電源を入れる。


休み明けは患者さんが多い。
長期の休みがあけた日なので、きっととても忙しいだろう。


それもいい。
何も考えなくてすむから。


考えたくないのに、結城と紗英がベッドに入っている映像が浮かんでくる。

奈々子にしたように、
キスをして、
髪に指を絡ませ、
甘い吐息をはいているところを。


「おはよう」
珠美がやってきた。

膝丈のフレアスカートに、レギンス。
とても可愛いファッションだ。


「おはよう」
奈々子は珠美がうらやましい。
こんなにかわいくて、大好きな彼氏もいて。
素直で、明るくて、まっすぐで。


「この間はありがとうね」
珠美が言う。

「今日、ランチごちそうするから」

「ええ? いいよ。そんなの。こういうのは助け合いだからさ。私のときもよろしくね」

「オッケー」
珠美は白衣を着る。
「何してた?」

「お休み? 実家に帰って、あとはごろごろ」
奈々子は答える。

「ふうん」
珠美が含みを持たせた言い方をする。

「何?」

「わたし、チェックしてんだよね。ブログ」

「?」

「須賀さんとでかけたでしょ」

「!」

奈々子はブログにのせられた写真を思い出した。
しまった。


「見た感じ、泊まりがけっぽかったけど。まさか、だよね」


奈々子はなんと答えていいのかわからず黙る。

そこへ八田さんが入って来た。


「おはよう。久しぶり」
ぴちぴちのグリーンのTシャツにジーンズという出で立ち。
少し日焼けしたようだ。

「二人とも、お盆休みどっか行った?」

「わたしはどこも。奈々子はどっか、行ったみたいですけど」
珠美がちらっと奈々子をみる。

「どこ?」
八田さんが訊ねる。

「やだ、実家ですよ。かえったんです」

「そう。ご両親お元気にしてらした?」

「はい。あ、そうだお土産持って来たんで、休憩室に置いておきますね」

「わあ、ありがとう」

「八田さんはどこかに行かれたんですか? 日焼けしてる」
珠美が訊ねた。

「どこにも行ってないのよ。でも長男のサッカーの試合があって、それに行ったらすごく焼けちゃった」

「へえ、息子さん、サッカー少年なんだ」

「下手の横好きでね。負けちゃったんだけど」
八田さん「ははは」と笑った。

「おはようございます」
鈴木さんが入って来た。

「おはようございます」
みんなも返す。

「鈴木さん、お休みどうでした?」

「楽しかったよ。一泊二日で白樺湖にも行ったし。お土産あるよ」

「わあい」
珠美が手をたたく。

「さあ、今日も一日がんばりましょ」
八田さんがそう行って、八田さんと鈴木さんは休憩室に入って行った。


受付のスペースに、珠美と二人取り残される。


「報告、だよ」
珠美が横目でにらむ。

「はい」
奈々子は身を縮めてうなずいた。