珠美にどう言おうかと考える。
せっかく紹介してくれたのに、キスされたら気持ち悪くて嫌になったなんて、かなり身勝手な話だ。
付き合うと決めたのは奈々子なのに、その後結城のもとに行ってキスしてきただなんて、ひどすぎる。
今週はお盆休みだ。
奈々子は実家に帰ろうと思っていた。
それほど遠いところではないけれど、帰るとなるとそれなりに支度も大変だ。
奈々子は携帯を見る。
邦明からの不在着信が何件か入っている。
電話にでるべきなのはわかっていたが、どうしてもできなかった。
お盆休みの間、たっぷり考えればいい。
火曜日は休日診療の当番だが、実家が東京にある珠美が診療所には出てくれる。
久しぶりに親の元でごろごろして、気持ちと考えを整理しよう。
奈々子はボストンバッグに何日か分の着替えをたたんでしまった。
月曜日の夜には、鞄の用意もでき、部屋の掃除も完了した。
日持ちしない食べ物は処分し、冷蔵庫はほぼ空っぽだ。
奈々子はシャワーを浴びてパジャマに着替える。
明日何時に家を出ようかな、と考えていると、携帯がなった。
携帯を手に取ると、珠美からだった。
「まずい」
そう思ったが、奈々子は覚悟を決めて電話にでた。
「もしもし?」
「もしもし? 奈々子?」
「うん。どうしたの?」
電話の向こうの珠美は、軽く慌てているように思えた。
「あのさ、明日の出勤、変わってくれない?」
「どうしたの?」
「彼がさ、仕事だっていってたんだけど、突然お休みになったらしいの。だから出かけられないか、って」
「そうなんだ」
「彼、お盆の間は実家に帰るから会えないの。だから、本当に一生のお願い。明日変わって!」
「いいよ。実家近いし。週末だって帰れる場所だから」
「ほんとう? ありがとうありがとうありがとう!」
珠美が電話越しに叫んでる。
「珠美にはいろいろ借りがあるから」
「やっぱ、奈々子は頼りになる。本当にありがとう」
珠美はそういって電話を切った。
邦明のことは一言も出なかった。
奈々子はほっと胸を撫で下ろす。