「預かれるけど…ちゃんと本人の許可はとってあるの?また前みたいなのはごめんだよ?」

前みたいなの、とは以前ここへきた姫の友人の事である。

真紀が気になっている様子を見かねて杏樹が話し始めた。

「前に姫の友達がここに来たんだけどね、自分の彼の記憶を預かって欲しいって。話を詳しく聞いてみると、彼が自分と別れたがっている。自分との関係を無かった事にして別の女と付き合うって。自分の事はもう忘れたいって言っている。でも、忘れて欲しくないから、自分だけでも覚えていたいからと、彼の中にある自分との幸せな記憶を預かって欲しい。って。
本人の許可をもらってるっていうから記憶を預かって三ヶ月後に引き出しにきたんだ。そしたら3日後に彼氏がうちの店に殴り込んできたんだよ。お前のせいで彼女との結婚がなくなったって。
訳がわからなかったんだけど、落ち着いて話してみると、記憶を預けにきた女の子は無許可で来ていて、彼が自分との思い出を忘れて幸せになっている頃に目の前に現れて自分の存在を思い出させる。一種のストーカーさ。
それで彼の婚約が台無しになってたのさ。
事情を説明したら当事者同士で解決してくれる事になったけど、あんなのはもうこりごりだよ。」


杏樹が話している間、姫は申し訳なさそうに縮こまっている。

「今回はそんなんじゃないって…」と蚊の鳴くような声で呟くのをみて、杏樹は渋々受け入れる事にしたようだ。