「はい、お疲れ様」

真紀の目の前に暖かいココアが置かれる。

「ありがとうございます」

自分のコーヒーを持って前の席に座る杏樹を見ながら真紀は礼を述べる。
二週間振りくらいに綺麗になった店内を見渡し清々しい気持ちになっている二人の前を、一匹の黒猫が横切る。

普通、黒猫が横切ると不吉な事が起こると言われるが、二人は嬉しそうに黒猫を見つめる。


「いい事、ほんとにありましたね杏樹さん」

真紀が微笑むと杏樹も微笑む

「そうだね、まさかミユキが帰ってきてくれるなんて…」


杏樹はコップを置き、足元に擦り寄っている黒猫を抱っこする。


この猫は預かり所の看板猫
名前はミユキ
半野良ネコのため店にいることは少ないが路頭に迷っていると近所の人に連れられて帰宅する。
自分から帰ってくることは殆どないので本当に看板猫と言えるかは不明である。


杏樹はミユキにご飯を食べさせるためにスタッフルームに入っていった。

真紀はココアを飲みながら、綺麗になった店内を見渡している。
こんなに綺麗な店内を見るのは本当に久しぶりで少し感動していると、店の入り口があき、ベルがカランコロンとなった。


「…杏樹さんの言ってたのって、ミユキさんじゃなくてこっちだったんだ」


小声で呟くと急いで席を立つ


「いらっしゃいませ!」