「そんな、まさか……。だって、二人ともすごく仲がいいじゃないか」



「ええ。お二人は他国の王族の兄弟に類を見ない仲の良さです。ラシェル殿下は、母の違うことなど感じさせぬほどにリヒター王子を可愛がり、頼りにしています。

リヒター王子もラシェル殿下を尊敬し、国を背負われるラシェル殿下を支えられるようにと、日々努力しています。……ですが、諸侯はそうはいきません」



 なんとなく話が見えてきた。



「つまりはリヒター派の諸侯が、正当な王位継承権はリヒターにあると主張しているということか。おそらくは、ラシェルとリヒターの母の貴賎を引き合いに出して」



「はい」と、フシルは頷いた。

「リヒター王子の母君――現在の正妃様の家と繋がりのある貴族方がこぞってリヒター王子を王位継承者に担ぎ上げ、正妃様と敵対関係にある貴族が、伝統と、現在病に臥せっている王の意思を盾に、それに対抗しているのです」



「今はどちらに分がある?」



「味方の数で言えば五分五分といったところでしょうが、なにしろリヒター王子には正妃様とその側近がついておられます。

宰相以外の重臣は皆、リヒター王子側ですね。

殿下側は今後、ルドリア様とラシェル殿下との婚約を盾にとろうとするでしょう。

それに焦ったリヒター王子側は――なにしろリヒター王子ご本人にラシェル殿下と争う気がございませんから、それも焦りに拍車をかけ――最悪ルドリア様を……」



 言い淀んで言葉を切ったフシルの代わりに、エルマが続ける。



「わたしを消しにかかるかもしれない、と。なるほどね……」