例えば王妃一人が死んでも、リヒターが生きていればリヒター派の諸侯は諦めない。

逆にリヒターだけが死んでも、王妃はラシェルが王になることを受け入れはしないだろう。



 そんなことは、わかっている。



「でも、こんなことラシェルは……」



「喜ばないだろうね」



 エルマの言葉はリヒターに遮られた。



 わかってるよ、と、リヒターは言う。



「だからこれは僕の自己満足だ。兄さんのためじゃない。君のせいでもない。僕がこうしたかったから、こうしたんだ。それだけのことだよ」



 そう言われてしまえば、エルマに言えることなど、もう何もない。



 エルマはただくちびるを噛んで、下を向いていることしかできなかった。



 臓腑を焼き付けるような強い感情が体の内を駆け巡る。

それは怒りのようであり、後悔のようであり、自責のようでもあったが、それが正確にはどんな名前の感情なのか、エルマにはわからなかった。



 それからどうやって牢から帰り、どうやって日々を過ごしたのか、エルマは覚えていない。



――三日後、リヒターの処刑が決まった。