従者たちは一切の抵抗をしないリヒターを再び牢に入れて、鍵をかけた。
リヒターは大人しく地面に座り込む。
いつもよりすこし、すっきりしたような笑みを浮かべながら。
「これが、王子の選ばれた道ですか」
イロが、呟くように言った。
「ああ、そうだよ」
「……王族を殺したとなれば、死罪は免れませんよ」
「もちろん、そのつもりだよ」
頷いたリヒターに、イロは「左様ですか」とだけ返した。
そして王妃の従者たちに「王妃様をお運びしろ」と命じて、その場から逃げるように早足で立ち去った。
「エルマ」と、リヒターが呼びかけたのは、イロの足音が聞こえなくなってからだった。
「さっき僕が言ったことを、覚えているかい?」
そう尋ねるリヒターに、エルマは一つ頷く。
もちろん覚えている。リヒターの身に何が起きても、自分を責めないでほしい、と。
「だけど、そんなの無理だ」
どうして止められなかったのだろう。
イロは、リヒターが死罪になると言った。
王族殺しは死罪だと。だったらまだ流刑のほうがよかったのに。
「どうして王妃を」
「兄さんが王になるためには、僕と王妃の両方が死ぬのが最善だ」
「そんなことわかってる」