これ以上攻撃を仕掛ける必要はないだろう、と判断して、エルマは構えを解いた。

利き手の肩に深手を負わせたのだ。

手練れとはいえ、さすがにもう戦えないだろう。



 だが、エルマが背を向けて去ろうとしたとき。



 ふいに、うなじの毛が逆立つのを感じて、エルマは振り向いた。



 と、同時に左肩に激しい痛みが襲う。

漏れそうになった悲鳴をぐっとこらえて見ると、背中の左肩に近いあたりに短剣が刺さっていた。



(右肩を潰すだけではあまかったか……!)



 チッと舌打ちをして、エルマは肩に刺さった短剣を一気に引き抜く。

歯を食いしばって激痛に耐え、抜いた短剣をその辺に打ちやると、エルマは流れる血をそのままに、再び短槍を構えて地を蹴った。



 高く飛び上がって、刺客に槍を振り下ろす。



さすがと言うべきか、刺客も素早く剣を構えてエルマの槍を受け止めるが、なにしろ怪我を負っている上に利き手が使えないので、重い斬撃に耐えきれずによろける。



 その隙を突いて、エルマは着地すると素早く槍を回転させ、刃とは逆の石突きで刺客の左腕を突いた。

ゴキッ、と嫌な音が鳴ると同時に、刺客は手に持った剣を取り落とす。



 エルマは再び槍を回転させながら刺客の脇を抜けて背後にまわり、槍を薙ぎ払った。

一拍遅れて、男の両のふくらはぎから血が噴き出る。



 刺客がその場に倒れるのを見届けて、エルマは槍を収めた。