エルマが山へ入った狙いはそれだった。

一旦二人の包囲を解き、一人ずつ相手をするため。

そして、追いかけてきた相手の勢いを利用するため。


敵がみずから勢いよく飛び込んでくれれば、女の身であるがゆえに男よりも力の劣るエルマでも、敵に深い斬撃を与えることができるのだ。



(さて、)



 あと一人、と呟きながら顔を上げたエルマは、ふと前方に一点の光を見留めた。

とっさに槍でその光を弾く。

地面に落ちたそれは、最初にメオラを狙ったものと同じ矢だった。



 すぐにヒュッと音がして、エルマはハッと顔を上げる。

目の前に迫っていた剣をとっさに槍で受け止め、背後に飛びのく。



 槍を回してその勢いで敵を突く。

刺客はそれを弾き、エルマの頭上を飛び越えると、背後から剣で切りかかる。

エルマは上体を捻ってその斬撃を槍でさばきながら、足元の土を蹴り上げた。



 土が目に入ってとっさに目をつむった刺客の腹に蹴りを叩き込む。

が、刺客はすぐに起き上がってエルマの方へ剣を突き出した。



 刃が二の腕を裂いた。

その痛みに顔をしかめながら、しかしエルマは敵の右手側に素早く回りこむと、敵の右肩に短槍を突き刺した。


「うあぁあぁぁ……!」

 うめいて剣を取り落とした刺客を、エルマは息を整えながら見ていた。