(なら、わたしがすべきは目の前の敵を倒して、ラシェルの手助けをすることだけだ)



 よし、と小さく頷いて、エルマは短槍を構え直す。

敵はそれほど手強くない。勝てる。



 薄い笑みを浮かべて、エルマはふいに駆け出した。

――まっすぐ、山の奥へ。



 その唐突な動きに一瞬戸惑ったそぶりを見せながらも、二人の刺客のうち背の高い方がすぐにエルマに続いて駆け出す。

後ろからもう一人が「待て!」と止めるのも聞かずに、殺気もあらわにエルマの後を追う。

すると背の低い方が、その後ろから仕方なさそうに追ってきた。



(まっさきに追ってきた方は雑魚だ)



 背の低い方は、少なくともエルマに何か意図があって山の中へ走ったことがわかっている。

おそらく、背の低い方を倒すのには時間がかかるだろう。



(雑魚を先に倒すか)



 そう決めるやいなや、エルマは唐突に足を止めて振り返り、その回転の勢いに任せて短槍をなぎ払った。



 急な動きについていけず、止まりそこねた刺客の顔、目の下辺りを槍の穂先が真一文字に切り裂く。



 激痛に顔を抑えた敵の剣を弾き上げ、エルマは続けて短槍を回転させると敵の太腿に突き立てた。

――足を潰した。これで彼はもう戦えない。