「君は、可愛くないね。」


一瞬、分からなかった。



それが、誰に向けられた言葉なのか。


「絢音(あやね)は、俺と話すよりも、携帯電話をいじっている方が楽しいんだな。」


ようやく、理解する。


冷静さを装った声と、繕いきれない強張った笑顔が、わたしに向けられたものだと。



「ごめんね。友達から、急用のメールがきてしまったの。」


「本当に?」


疑わしそうな、誠(まこと)の目線。


「本当に。」


面倒なことになったな、と思う。


だから、嘘をついた。


「今返信しなければならないほど、急ぎの用なのか?」


「・・・・・・」


わたしの無言を、誠はどう解釈したのだろう。


「・・・君は、本当に可愛くないな。」


先ほどと、全く同じ言葉を繰り返す。


けれど、それがまとう重力は、明らかに増していた。


誠の薄い唇が、その重さに耐えかねたように、小刻みに震える。