「えっと……驚かせてしまってすみません」
そう言って驚くあたしに向かって深々と小さい頭を下げてくれた。
「え!あ、こ、こちらこそすみません」
あたしもつられるように頭を下げてしまう。
別にあたしは何も悪いことしをてないんだけど
……ってゆうかこの子も悪いことしてないし。
あたしは慌てて頭を上げて女の子に頭を下げないように言おうとした。
でも、あたしが頭を上げたとき
女の子はにっこりと微笑みながらあたしのことを見ていた。
え………あ……、可愛い。
不意の笑顔に胸がグッとなったよ、グッと!!
「あなたも誰か待ってるんですか?」
にこにこと微笑みながら話しかけてくれた女の子はそう言いながらベンチの隅に腰掛ける。
「あ、えっと……待ってるとかじゃなくて…」
好きな人を眺めるのがあたしの日課だから!
なんて言えない。
だってそんなこと言ったらあたし、
思いっきりストーカーじゃん!!
な、なんて言えばいいんだろう。
そんなことを頭の中でぐるぐると考える。
そして、出てきた言葉は───
「す、好きな人が頑張ってるのを見てるのが日課なの!!」
結局、あたしのお馬鹿な頭ではストーカーみたいな言葉しか言えなかった。
な、なに言っちゃってんのあたし!?
変な言葉を言った自分に勝手に驚いてしまう。
あたしは慌てて女の子の方を見ると
女の子も目をパチクリさせてあたしの方を見ていた。
こ、これは完全に引かれちゃった?
って思ったのに
女の子の表情はにっこりとしたものにかわる。
「その気持ちわかるよ。好きな人が頑張ってるとつい見るのが日課になっちゃうよね」
そう言って笑ってくれる女の子。
その笑顔にホッとしてあたしも女の子と同じベンチに腰掛ける。
そして、弓道部の部活動が終わるまで
ずっと二人で他愛ない話をした。
────────……
そして、弓道場の明かりが消えたとき
女の子はベンチから立ち上がった。
「あたし、そろそろ行かないと」
「あ、あたしもそろそろ帰ろうかな」
そう言ってあたしもベンチから立ち上がって大きく伸びをする。
「今日は楽しかった!また話そうね」
そう言ってまた可愛い笑顔をあたしに見せてくれた女の子。
「うん!」
あたしもつられて笑顔で頷く。
あ、そういえばあたし……
この子の名前聞いてなかった。
「あ、あの───…」
「美夜!」
あたしの目の前でにこにこと笑っている女の子に名前を聞こうと口を開いたとき、
誰かが誰かの名前を大きな声で呼んだから
あたしの声はかき消されるようにして消えていった。
そして、美夜って名前の女の子は
あたしの目の前にいる可愛らしい女の子の事らしく、女の子はあたしに背を向けて声のする方に振り返る。
「あ!お疲れ様ー」
「ごめん、遅くなった」
遠くから走ってくる人の影に女の子……美夜ちゃんは大きく手を振る。
あやまりながら走ってきた人は
美夜ちゃんにの目の前で立ち止まる。
あたしはその人を見て
驚きで目を見開いてしまった。
え……………うそ…………。
「じゃあ、またね!」
驚きで声が出ないあたしに
美夜ちゃんがにっこりと微笑んで手を振った。
それにつられてあたしも
何も言わずに手を振った。
そして横目で美夜ちゃんの横に立っている男の子をちらりと見た。
すると、男の子は
あたしに向かって軽く頭を下げると
美夜ちゃんと一緒に歩いていく。
あの………男の子。
あたしは遠のいていく二人の背中をじっと眺めた。
近すぎる二人の距離。
にこにこと微笑んで話す男の子の横顔。
たまに触れ合う二人の指先。
そんな二人を見て
ズキズキと痛むあたしの心臓。
あの二人、もしかして………
嫌な考えがあたしの頭の中によぎる。
でも、ただの友達かもしれない。
そんな淡い願いを考えながら
痛む心臓を抑えて
あたしもゆっくりと帰るために歩き出した。
光太side
君と帰るのが
俺たちの日課。
好きな人が出来たなんて
君から聞いたことがない。
彼氏が出来たなんて
今まで聞いたことがない。
もしかしたら
君も俺のことが好きなのかも。
なんて
甘い考えが
俺の心に芽生えていた。
そんなときに
君は思いがけないことを言う。
いつもの夕暮れの帰り道。
二人で近すぎる距離で歩きながら
君の笑顔を見て
疲れた心を癒していたとき
君は
俺が好きな笑顔を浮かべて
「光太、あたしね…彼氏が出来たよ!」
憎らしい言葉を吐いた。
俺の心は大きく弾んで
でも、その心の動揺が君にバレないように
呆れた表情をうかべて
あからさまにため息を吐いた。
「何?また何かの嘘が妄想の話?」
バクバク、音が鳴る。
声で自分が動揺していることがバレないようにする。
「え!違うよ!!
ホントに、現実に出来たし」
少し頬を膨らませた君。
俺から視線をそらして
下を向きながら歩いていく。
そんな君の姿ですら愛おしい。
でも
君に彼氏が出来たことは信じたくない。
お願いだから
その君の口からやっぱり嘘だと言ってくれ。
「嘘は泥棒のはじまりだからな」
そう言って、拗ねている美夜の頬をつついた。
すると美夜は俺の人差し指をキュッとつまんで
上目遣いで俺のことを見る。
ドキン……
掴まれた指先から
身体がじわじわと熱くなる。
「ホントだもん……」
泣きそうな声。
二人しかいないこの道。
俺はつい、ため息を吐いた。
そして、振り払うようにして
美夜の手から逃れると
俺のことを見る美夜から視線を逸らす。
何、考えてんだか。
俺は………。
誰もいないこの道。
人通りが少なくて
夕暮れで薄暗いこの場所。
ずっとずっと好きな子に
彼氏が出来たと言われて
少女マンガとかなら
強引にでも、好きな子を振り向かせようとするだろう。
腕を引いて
自分の腕で抱きしめて
耳元で「好きだ」
なんて、恥ずかしい言葉を吐いて
そして
驚く君にキスをして。
そんな強引なことが
今、ここで
出来るかも知れない。
なんて…………
バカなことを考えた。
そして、俺は周りを見渡して
誰もいないことを確認する。
「美夜」
まだ拗ねている美夜の名前を呼ぶ。
すると美夜は、ちらりと俺の方を向いて
すぐに視線そらしてきた。
「名前呼んでるんだからこっち向け」
そう言って無理矢理にでも
美夜を俺の方に向かせる。
「なに?」
口を尖らせて、また上目遣いで
俺のことを見る。
なに?
なんだよ、その顔。
ほんと
自分の姉ちゃんながら
可愛すぎる。
「美夜……、その顔
反則だから………」
「え…………?」
俺は自分の両手で美夜の小さな顔を包み込む。
そして
ばくばくとうるさい心臓が
美夜にバレないように
ゆっくりと、
美夜に近づいた。
「ちょっとじっとしてろよ?」
「え?うん」
もう、鼻と鼻がぶつかりそうな距離。
美夜の吐息が
微かに聞こえて
俺の心臓が張り裂けそうに
バクバクして
体、全体が熱くなって
俺の頭が
どうにかなりそうで
なのに……
そんな、苦しい思いをしてるのは
俺だけで……。
こんなに
近いのに
こんなに
唇が触れ合いそうな距離なのに
こんなに
愛おしく思っているのに
「むかつく」
どんなに
声を小さく呟いても
美夜には、俺の言葉が聞こえていて
「姉にむかつくとは、何事ですか?」
余計、美夜を怒らせた。
そんな美夜でさえも
好きで好きでたまらない。
言いたい。
言いたい。
俺が一番、お前を好きだと。
だから、
だから
これだけは
どうか、許して。
俺は、無理矢理離れようとする美夜に触れたまま
手を滑らせて美夜の両耳を塞ぐ。
「わっ。ちょ、な、なに?」
嫌がる美夜
そんな、美夜を
俺はじっと見つめて
「俺の方が
ずっと前からお前のことが好きなのに
ちょっとぐらい気づけ」
気づけ。
気づけよ。
気づいてください。
俺の気持ちに。
どれだけ好きかとゆうことに。
この
報われない恋心に。
鈍感で馬鹿な美夜は
俺のいたことなんかわかってなくて
「なんてったの?」
そんなことを言いながら首をかしげて………。
ほんとに…
ほんとに…
俺は目を瞑り軽く息を吐く。
「馬鹿な姉ちゃんには教えない」
そう言って美夜のおでこを軽く弾くと
先に歩き出す。
「はあ!?
お姉ちゃんを馬鹿にするな!!」
怒りながら美夜が後ろからついてくる。
そんな美夜を馬鹿にして
いつもみたいに美夜に接して
この俺の気持ちがバレないように
必死に隠して
今日も美夜に触れる。