スーースーー スーー


愛人の呼吸が聞こえる。


生きているんだ、そう思うと本当に安心した。



『愛人...生きててよかったぁ....。』


愛人の手を握るといつもみたいに暖かくはない。
いつ目を覚ますのだろう。



医者に聞けば運がよければ目が覚めると。
まぁ、そんなにひどい症状じゃないから目が覚めると。


隣には愛理ちゃんがいる。
愛理ちゃんは心配そうに愛人を見つめる。



『愛人って...名前。由来...知ってる?』

「え...? 」

愛理ちゃんは戸惑って首を振った。

『愛を与える人って書いて愛人。そ〜思うとなんかいい名前だなって思うの。』

私は何を言ってるのだろう。

何故、愛理ちゃんに伝えようとしてるのだろう。


『愛人.....でもさ......!?』


愛人の手ががっと動き薄らと目を開けパチパチしている。


「.......何、俺の話をしてるんだよ..... 。」


『あぁ....大丈夫?』


「あぁ、俺...なんでここにいるんだよ。」


『事故ったらしいよ。帰り道のあの見通しの悪い交差点でバイクとぶつかったらしい。バイク乗ってた人は吹っ飛んだだけだったけど...愛人は吹っ飛んでうちどころが悪かったみたい。』


愛人は華奢な腕を見てボロボロだ...呟いていた。


「まーくん....痛いよね...。」



「ん?そんなことない。慣れてる。痛くはない。愛理ちゃん...お見舞いありがとな。」


愛人は可愛い女の子に弱い。
そして、愛理ちゃんみたいな白くて華奢で小さくて純粋そうな子が好きなんだ。


そう、あの子みたいな子がね。


「うんん。愛理、勝手に来ちゃって....そー言ってもらえてよかった。」


愛理ちゃんは本当に性格がよくて可愛い。
こーゆう子がモテるんだよ!!


愛理ちゃんはもう帰るねっと可愛く手を振って病室を出ていった。



「俺のことをあまり話すなよ。それに俺は名前を変えるつもりだ。」


愛人は真顔でしんみりと話す。



「美樹さんはいい人だ。悪いのは俺の親父。お前は美樹さんを責めちゃダメだ。」




美樹さんとは私の母だ。
私を21歳で産んでシングルマザーとして私を育ててくれた。



「美樹さんは俺の事も面倒見てくれてたし、俺さ、美樹さんいなかったら親父に捨てられてた、そんな気がする。」


愛人の父親は.....。


「俺は親父を許さない。母親を見捨てたあのクソ男。許せない。」


なんだろう、この気持ち。


『やめてよ。そんなこというの。悪く言わないでよ。』


「......あぁ、悪い。ごめんな。」