いまは国語の時間


一際うるさい生徒が居たとさ。



『身長156cm、茶髪のアシメ、通称まーくんこと黒瀬愛人。未だにまーくんと呼ばれるチビ野郎〜♪後輩になめられるよおちびちゃー…!』





「おい!!!俺はチビじゃねーよ!だったらおめーは身長148cm、黒髪のロンゲ、通称はなちゃんこと柳川華。ちっちゃいくせに生意気はなちゃーん〜♪」




『カッチーン!もうまーくんなんか知らないー溝に浸かってろ!そして溺れちゃえ!!!』




「はぁー?華が先に俺にあんなこと言うから構ってやったのによー!逆ギレー?あぁ?」





「お前らうるさーい!!いまは授業だ!コントをしてるんだったら他でやりなさい!!まったく、黒瀬と柳川は仲がいいんだから…!」





『「仲良くなんてないですから!!!」』







一気にクラスが静まり返った。この息のぴったりさ、何と言っても気持ち悪い。





「2人は授業妨害のためのコントを考えているんだったら2人で芸人でも目指せ。…おいー、256ページ開けー!」







担任のけっつんの声が教室に響きわたる。
高校生ってもっと楽しいものだと思ってた。
愛人なんかと出会わなければほんとに楽しかったはず。






ーキーンーコーンーカーンーコーーンー♪





チャイムがなると同時に私は目を覚めた。


「はな〜、今日も最高だったね〜、まーくんとのコンビ!」



私の肩をバシバシ叩きながら大爆笑しているのは愛理ちゃん。愛理ちゃんはクラス1可愛い女の子。


『愛理ちゃんー、私は別にコンビを組んでる訳ちゃうのよ〜。それにあんなクソちびに…。』



「そんな、クソちびじゃないよー!顔かっこいいし、可愛いし、優しいし、面白いし!完璧じゃん♡」





そう、みんな口をそろえてアイツを褒めたたえるの。みんなは知らないだけ、アイツの醜さを…。




『そんなの錯覚でしょ〜!お弁当、お弁当ー!いただきまーす♡』



愛人なんか最悪だ。そーだそーだ。
あんな可愛い顔したって裏がある。
それを知らないなんて…。



「いっただきーー!」


華ちゃん特製うさちゃんりんご。



『あぁーー!うさちゃんりんご!吐けそして返せ!』




「吐いてやろーか?ハハッ!あ、俺もう帰るからけっつんに言っといてー!早退って!」



じゃなーっと手を振って教室を出て行った。

なんなんだアイツは。






「ねぇ?華ってまーくんとどんな関係なの?」





こんな愛理ちゃんが真面目な顔をして私に聞いてくることがないから動揺して卵焼きを落とした。





ペターッ。






『あ!!!卵焼き…愛人とはなんにもないよ。ただ、親が仲良かっただけー。』







「なーーんだ!あのね、愛理〜まーくん好きなの。」







『へーー。ん?ッえ!まーくんってあのまーくん?!』






「そうよ。だから華って仲いいじゃん?情報しれたらなーって♡」





愛理ちゃんって趣味悪いのかしら…愛人だけはやめたほうがいいって…思っても言えない。


『アイツは。うん。わからない!』


「えーそんなぁーー。」


『だから、私はそんな仲良くないもん。』


「そっかぁー。ねぇ?まーくんって彼女いるの?」

『えー?いないんじゃない?』

そんな知るわけないじゃん。




「元カノとかは?」





元カノ…居たっけ?
あぁ、あの子いたな。可愛い子。名前なんだっけ.......。

『いた気がするー。』





愛理ちゃんは私の手をとって必死になってる。

「それって愛理が知ってる人?誰??」

『え?多分知らないよ!中学の時だし!』

「あ、そうなの。 」

愛理ちゃんがほっとした時に5時間目の予鈴がなる。

「また後で聞かせて♡」

『はいよー!』

正直、アイツの過去はあんまり言いたくない。
多分、愛人も言われるのも嫌だと思う。


生物基礎かだるいなぁー。眠い。ほんと眠い。


「はな!」

え?なんで愛人がいるの。
それになんか髪黒いし.....。



『どうしたの?愛人、髪染めたの?』


「あぁ、なんか茶色あきてさー。」


髪をわしゃわしゃと掻き乱す。そんな愛人が幼く見えた。


『どうしたの?帰ったんじゃなかったの?』


「おぅ、帰ったんだけどさ、華にいい忘れてたことあってさ。」


愛人は一瞬真顔になった。あの人の面影を感じた。


「俺さ、華に出逢えて良かったわ。」


『はぁ?何言ってるの?急にどうしたの?』

愛人はいつもと違う笑顔でほほえんだ。


「華がいなかったら、多分、俺は死んでた。なーんてな!」


そんな笑い方始めてみたよ。
愛人は近づいてきて私の手をとった。
普通の男の子より小さくて、目線が近い。
でも手は誰よりも大きくて暖かい。
私にはそう感じた。


「華もよく頑張ったよな。もしなんかあったら俺を頼れよ?俺はもうお前より強い。今度は俺が華を守るばんなんだ。」


なんでそんなこと言うの?
過去の思い出が蘇る。
愛人は私の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。


「なに、泣きそうな顔してるんだよ?大丈夫。華には俺がいる。」


愛人は私の肩を優しく撫で、優しく抱きしめてくれた。愛人ってこんなに大きかったっけ?


『愛人…あり…う。』

愛人は私の口を抑えて


「まだ俺は華に何もしてない。」


『うん。』









「柳川ー。」

『ん?』

何かがあたしを呼ぶ。
そして地震が起きた。

なんだこれは?






バシっ!!!!






『いった!!!』


頭に落ちてきたのは1m定規。
立ち上がった私の目の前にいるのは愛人じゃなくて、斎藤先生というイケメン先生だった。

「柳川〜。俺の授業で寝るってなかなかの度胸だなぁ〜。LHRが終わったら職員室にこいよー。なんか担任の先生から話があるらしいよーん。」

『はなし?えっ。』

「うし、今日はここまで!号令!」

なに、話って?留年?嫌だよ。
どうしよう。



まさか…退学?







ガラガラー。





『失礼しまーす。1年2組の柳川でーす。池田先生に用があってきましたー。』


「おぉ!!!柳川!ちょっと進路室こい。」

『え、はーい。』



進路室ってやばい人がはいるところやん。どうしよ。なにした、私は。


「柳川、お前って黒瀬と親戚なんだってな。」


『あ、はい。そーですけどなにか?』


「あのな、黒瀬さっきの帰り道に事故ったんだ。それで保護者や親戚の方に連絡しようと思ったんだが誰もいなくてな。それで備考欄のところに柳川と親戚って、多分黒瀬が書いたんだろうけど。」



『はい。で、愛人は大丈夫なんですか?』




「あぁ、意識はまだ戻らないらしけど、命には問題ないらしい。」



ほっとして、力がぬけた。


「柳川、お前の親御さんに連絡しとくな。」


『あ、それはやめてください。私が親にはいっとくんで大丈夫です。』


「あぁ、そうか。じゃあよろしくな。」


『はい。』


愛人が夢に出てきたのは事故ってたからかな。
そうだよね、愛人には私しか家族がいない。


教室に戻ると、愛理ちゃんが一人残っていた。



「大丈夫だったー?愛理心配だったんだよー。」

『大丈夫だったよ!全然問題なし!』



「ならよかったー!!一緒に帰ろっ♪」



愛理ちゃんは優しい、愛理ちゃんなら愛人のこと受け入れてくれるのかな。


『愛理ちゃん、愛理ちゃんはなんで愛人が好きなの?』


「んー?愛理が落ち込んでた時にまーくんが励ましてくれたの。その時に色んな話してくれて、愛理が笑うまでずーっと変な話するの。そんなとこみてたら、愛理のことこんなに考えてくれるんだって。それからだんだん好きになっちゃったの。」



アイツそんなことしてたんだ。
愛人は優しいんだよね。あの優しさは罪だよ。