「 いやあ。いいコだよ、緋依子ちゃんは 」


満面の笑みを浮かべた親父が俺たちの元へやってきた。


「 緋依子ちゃんっていうのね? 」

「 薫よりふたつ上の女子大生だ 」


へえ…ふたつ上ということはちょうど20歳か。
正直に言うと、もう少し上だと思ってた。


「 もちろん採用なんでしょう? 」

「 明日から入ってくれるそうだ 」

「 まあ!さっそく?嬉しいわあ 」


そんな親父とみすずさんの会話を聞きながら、
俺は口元が緩むのを必死にこらえていた。

これから彼女に会えるようになる。

単純ながら、喫茶店の息子でよかったと思った。


*


「 おーい。薫ー? 」

「 … 」

「 薫、聞いてんのか?オイ 」

「 あ、ああ…なんすか? 」

「 カップ下げに来たんだろうがよ 」

「 そうでしたっけ 」


七瀬さんの声もはるか遠くにしか聞こえない。
俺の頭の中はもう彼女のことでいっぱいだった。




─── これから起こる何かを予感しながら
あの時の俺はとにかく、とにかく浮かれていた。


◎ 予感 end.