「もちろん。女の子だもの。好きな人が来たらどんな状況だってわかるわ」

じゃ、ごゆっくり

少し驚いた顔をする北河に微笑んで、ドアがぱたりと閉まる

狭い病室には、裕と結衣の二人だけになった

そっと結衣を捕えた瞳が優しさを宿す

それと同時に切なさも

手に持っていたスズランを、用意された花瓶に移す

中にはすでにきれいな水がなみなみと入っていた

どこまで気が利くんだろうか

ふといつも北河が来ると話しかけてきてくれる医師たちの顔が浮かんで思わず苦笑する

結衣の入院当初から親切にしてくれた医師たちに救われたのは一度や2度ではない

「結衣」

もう一度呼んだ声は、静まり返った部屋に消えていく

返答はない

もう一年と半年、結衣が、返答してくれたことはない

ただ、眠り続けるだけだ

「結衣、誕生日おめでとう」

そっと柔らかな髪を撫でる

記憶と全く変わらないサラサラの髪

指をすり抜けて逝くそれを何度も手に掬う