ああ、何度望んだだろう

名を呼べば、相手が返してくれることを

結衣の唇が自分の名をつむぐことを

結衣の肩口に、負担がかからないように額を押し付けて

長い長い息をつく

今まで感じていた絶望も孤独も何もかも消えていく

湧き上がる感情を何度も息をつき、やり過ごすと

北河はしっかりと結衣を見つめながら

「…お帰り、結衣」

小さく微笑みながら告げる

何度もこういえる日を夢見ていた

結衣が帰ってきたら絶対に言おうと決めていた

「おかえり、結衣」

もう一度繰り返すと、結衣がゆっくりと微笑んで頷く

つられて笑った北河の表情は、この一年半の中でいちばん輝いていた