聞こえるのは時々車道を通る車の音だけ

その国道沿いに小さな花屋がある

北河はその前で足を止める

先ほどまでの早足が嘘のように、そこで足は止まってしまう

「こんばんは」

店先で生けられた花を眺めていると店内からエプロンをして髪を一つに結った女性が出てくる

穏やかな雰囲気が印象的な人だ

「こんばんは」

反射的に返すが、視線はすぐに花に移る

「ぎりぎりセーフって感じね。もう少し遅かったら閉めちゃってた」

おどけて言う店員さんにふと安堵したように微笑みながら

本当はもう閉店の時間をちょっと過ぎてるはずだと思う

「スズランお願いします」

「はーい。ちょっと待っててね」

笑顔で奥に消えていくその背を見つめながらふ、と息をつく

ここでこうしてスズランを買うようになってどのくらいが経つだろう

小さな白い花が印象的なスズラン

可愛い花だと思う

「はーい。お待たせ。今日入ってきたのだからとっても綺麗よ」

そう言ってきれいに包装されたスズランの束を差し出してくる

「ありがとうございます」