「…あの、北河さん」

北河の寂しげな瞳を見つめていた奈々絵が、背筋を伸ばし真っ直ぐに見つめてくる

「今日誘ったのはお話があったからなんです」

「うん」

二人を照らすライトでうっすらとテーブルに影ができている

「北河さんが彼女さんのこと、本当に大切に想っているのはわかりました。たぶん、私がどうこう言える立場じゃないとは思います」

でも、

「私、北河さんに前に進んでほしいんです」

奈々絵の言葉に北河が少し目を見張る

「べ、別に北河さんが後ろ向きとかって言ってるんじゃないですよ。それに彼女さんを待つことは凄いことだし、その彼女さんのことが正直うらやましいです。でも、ずっとずっと捕われたままでいてほしくないんです」

そう話す彼女の瞳は必至だ

北河に振り向いてほしい

そんな思いではなく、本当に北河のことを思って言っている

それが分かる瞳だから何も言えなくなる