智樹に結衣のことを簡単に説明したからだろうか

以前のような冷たい視線を投げかけられることはなくなった

ただ、時節何かを言いたそうな瞳をするが、その口から出てくる言葉がなんとなくわかるだけに

北河はそれを聞く気はない



「北河さん」

その日も終業をむかえ、エレベーターで一階に下りて帰路に着いた北河の背に声がかかった

振り返るとすでに帰り支度を済ませた桜城奈々絵が立っていた

どうやら待っていてくれたらしい

「どうしたの」

少し驚いてそう問うと

「これからちょっといいですか」

ご飯食べながら少しお話しませんか?

そう言って結衣と同じ黒い瞳を向けてくる

「いいけど…」

なんだろう

釈然としないまま、けれど奈々絵の澄んだ瞳に頷くしかなかった

「良かった。断られたらどうしようかと思ってました」

北河の返答ににっこりと安心したように微笑む