「…結衣はいつ目覚めますか」

北河の視線は相変わらず結衣に注がれている

「…いつかはわからない。明日かも知れないし、明後日、あるいは一か月後、一年、もっと先かもしれない」

医師の言葉に無意識に拳に力が入る

「それに、意識が戻っても元の生活に戻れる保証はない。もしかしたら何かの障害が残るかもしれない」

淡々と紡がれた言葉

一つ一つを復唱し、理解すると同時に絶望を感じる

思い出すのは、最後に見た結衣の笑顔

繋がれた手の温かさ

絡められた細い指

そして二人で歩いた夕日の公園だ

「………それでも、」

ゆっくりを息をしてから口を開く北河を医師が静かに見下ろす

「それでも、結衣は生きてますよね」

「ああ、もちろん」

たとえどんなに眠り続けようとも

記憶の結衣より痩せようとも

呼びかけに答えてくれなくても

握った手に指を絡ませてくれなくても

それでも、結衣は生きている

閉じた瞼の裏に浮かんできたのは、結衣の飛び切りの笑顔だった