気が付くと隣に一人の医師が立っていた

あの時、結衣の手術を担当してくれた医師だ

結衣の担当はその時助手をしてくれた若い女医だけれど、

何度か結衣の病室から出てくるところを見たことがある

きっと気にかけていてくれたのだろう

「……悪い」

口を開いたのは医師の方だ

何が、そう思って背の高い医師を見上げると

「大草さんをちゃんと帰してやれなかった」

それだけつぶやいた

思わず北河は首を振る

結衣は相当ひどい状態だったと聞いた

それをこうして繋ぎ止めてくれたのは他ならぬ彼だ

たぶん、他のだれであっても結衣を助けることはできなかったのだ

でも、今結衣の手は温かい

それが、それだけが、唯一の希望だ